地元で実戦空手の一派を主催する知人が古流空手に入門したという話を思い出しました。理由は「極めたいから」だそうです。外国人の内弟子と共に過酷な基礎稽古を受けたとか。気持ちは理解できるのですが。

僕は多くの古流派に対して批判的です。実戦とかけ離れた夢想的な技をさも誇らしげに語る点が理解できません。この古流派も「両目に指を突刺し眼窩低を引き剥がせば即死」と館長自らが豪語しているとか。実戦で目を攻撃することの難しさや非合理性を無視しており、かりにそんな技が使えるほどの達人であるなら、より平和的な制圧も可能であるという矛盾をも無視し・・。

古流はすべてダメというのではありません。武田惣角や植芝盛平の超人的逸話を僕は信じています。実戦とは所詮殺し合いと嘯くのは簡単です。それでも、「より平和的な攻防の選択肢」を当ラボではスローガンとして掲げていきたいのです。とは言え、相手が無法非道の輩の場合、容赦は無用ですよね。

格闘技経験が無いのに、喧嘩では負け知らずというような人はどこにでもいます。はたしてどのくらいの強さでしょうか。

そういう方のファイティングスタイルはほぼ同じです。まず先手。吸っている煙草やライターを投げつけるフェイントに加え、飛び蹴りなどの奇襲。強烈な押し出しと、フルパワーの連続攻撃。打たれ強さとある程度のスタミナ。そして周り地形事物のすべてを勝つために利用するクレバーさです。

前田日明先生の主催するトーナメントでも、最終的には経験者が勝つのですが、喧嘩自慢のなかには素晴らしい格闘センスを見せる方がいます。我流独特の攻撃を使い、プロギャンブラーのような見事な駆け引きで、どんな相手にも一歩も引かずに戦う姿には感動すら覚えます。

実戦において危険なのは、格闘技経験者の悪人より、喧嘩自慢の悪人だと、僕は考えます。ふいに、意表をついて始まる暴風雨のような攻撃にどう対処するか。彼らの攻撃はマッチのようなものです。激しく燃えて、唐突に消えます。消えるまで待てば、勝つまでもありません。そういった奇襲に対応するオフェンスとディフェンス。それこそが当ラボのテーマです。

打撃系格闘技のある流派において、摑んだ手は「死んでいる」と見做します。そうでしょうか?

格闘技経験のない方のいわゆる「取っ組み合い」においてさえ、無意識に相手の両肩を押さえる行為は、相手の打撃を防ぎ、弱める効果があります。もしあなたの肩口や襟首を掴んできた相手が柔道の有段者だったら、ーーーー次の刹那、あなたは固いアスファルトの上に叩きつけられ、悶絶しているか、あるいは受け身の取れない角度で頭から落とされてーーーー。

私の通った高校は柔道が大変強いことで有名な学校でした。体育の授業では全国クラスの選手とも乱捕稽古をします。まったく歯が立ちません。まるで電柱を相手にしているようです。万力のような握力。バランスを崩そうにもぴくりとも動かぬ両足。挙句には、投げ落とされながら、怪我をせぬように気を使われていることを知るのです。

つまり、絶対に摑まれてはいけない相手なのです。打撃は当たるでしょう。しかし、はたして、簡単に倒れてくれるでしょうか。

それでも、闘い方はもちろんあります。柔道家に負けない技術を、一緒に研鑽しましょう。

格闘技における完全な勝利とは? 一つの考え方として、相手の得意技を含めたすべての技を受けて、それに耐えるというものがあります。その上で相手を倒せば、これこそ完全なる勝利でしょう。(個人的には一発も受けないことをお勧めしますが)一般的にプロレスラーというのはそういった人たちです。間違いなく強いのです。

プロレスラーや相撲レスラーに一度でも接触したことがある方なら、殴ったり蹴ったりで倒すのは大変困難な相手だと分かるはずです。桁外れの体重の分、小回りが利かないだけで、動きも大変素早く、しかも恐ろしいスタミナを持っています。このような高い知性と格闘技術をもったヒグマというかゴリラのような相手とどう戦えばよいのか?

当ラボが重視する基礎動作は、特に大柄な相手に対し、有効だと自負しています。

批判的なことはあまり書きたくないのですが、少しだけ赦してください。

研修生の一人が、ストリートファイトを扱った漫画の技が実際使えるかと訊いてきました。内容は打ってくるストレートパンチを避けて流し、外側からその肩を掴み相手の体制を崩すというのです。漫画に書いてあることなど真に受けてはいけないと告げると、その漫画は超リアル系と謳い、しかも作者が技の解説もしているというのです。仕方無く、僕が殴りかかるからやってみなさいということになりました。当然、同じことはできません。その漫画の作者はよほど格闘の天才なのでしょう。

確かに利き腕によるパンチは、ストリートファイトの初弾として、もっとも確率は高いでしょう。しかし、経験のある方なら分かると思います。胸倉を掴まれていたり、異常に近い距離で睨み合っていたりという状態から、ストリートファイトは始まるものです。しかも喧嘩慣れした腕自慢は、意外な初手を撃ってきます。

幅広い攻撃に対応できる防御。これが肝要だと、当ラボは考えます。

失神は危険です。睡眠とは異なり、医療麻酔による意識の無い状態と同じで、何をされても痛みを感じません。つまりは殺されても気づかないのです。

強烈な殴打により失神した相手の体の一部を切除する、などという酷い事件が起きています。それほどに、格闘中失神することは危険なことであり、即ち、失神するほどの直撃を受けてはいけないということです。

見えている攻撃はある程度には耐えることができます。怖いのは見えない攻撃であり、つまりは攻撃を見ていないことです。

音速の突きや蹴りなどはありません。しっかりと全体を捉えていれば、攻撃の予測は可能です。

当ラボで研修するのは実戦の概念と対処です。目的は勝利でなく、相手の戦意や戦闘力を奪うことにあります。

猫科猛獣の捕食は無慈悲で恐ろしいものです。待ちかまえ、鋭い爪で組みついては押し倒し、頭部や首を狙い、咬み附いてあっさりと殺します。

逃げ回る相手を捕らえ、致命的な攻撃を確実に当てる。これは昨今流行りの総合格闘技と同じメソッドです。それほどに総合格闘技を遣う相手は危険ということです。

しかし、対処法が無いわけではありません。虎やライオン同士の闘いを見てもわかるように、相手が臼歯と蹄しかない場合と、鋭い牙や鉤爪を持っている場合とでは、明らかに闘い方を変えています。

当ラボで覚えていただくのは、角による威嚇と、万一組み付かれた場合に使用する牙と爪です。必ずしも、寝技に対応する寝技技術を覚える必要はありません。

 当ラボで研修していただく格闘技や護身術は、あくまでも実戦だけを念頭においたものです。ですからルールの概念はありません。むしろルールは、危険な概念として禁忌なのです。(勿論、将来修めたい格闘技のルールに沿ったトレーニングも可能です。)

 ほとんどの格闘技で禁止されている「金的・目潰し」を有りとして闘うなら、そのスタイルは、全く別なものとなります。

 MOB連中の諍いであっても、通常、一般的に、暗黙の了解として、いきなり金的を蹴り上げたり、喉や目を突いたりはしないものです。刃物や凶器を持って現れることがあっても主には威嚇の為で、いきなり殺傷されることは稀です。

 しかし、この稀な出来事にほとんどの人が対処できず、災難に遭うことになるのです。

 開始の合図無。ルール無。レフリー無。この無法への対処を研鑽することが、当ラボの存在意義と考えます。